ベイビイ春菜⁄序章

佐伯春菜20歳。
この春、短大を卒業したばかりのOL1年生。
仕事に追われ、あっと言う間に1ヶ月が過ぎ社会人として初めてのゴールデンウィークをどう過ごそうかと考えながら家路についていた。
「春菜ちゃん」
自分を呼ぶ声に振り返ると、先輩の千秋が駆けてきた。
「春菜ちゃん、連休は何してるの。もし暇だったら、軽井沢に行かない?旅費だったら心配しなくていいのよ。彼と行くはずだったんだけど、急な仕事で行けなくなったから、俺のチケットを使って友達と行ってこいだって、失礼しちゃうでしょ。」
いつも冷静で大人の人って言うイメージの千秋がこんな風に喋るのを見て春菜は唖然とした。
「どうしたの?ポカーンとして、ね、ダメかな?予定があるの?」
「い、いえ、予定なんてないです。千秋先輩が会社と感じが違うんでビックリしちゃって」
「フフフ、会社ではキャリアレディを演じてるの。男どもに、なめられないようにね。」
「よかったわ予定がなくて。今夜8時の列車だから……」
「えっ、今夜ですか。家まで往復2時間くらいだから、今6時でしょ。準備する時間がないからむりですよ。」
「大丈夫よ、家に妹の服があるし、下着も新しいのが置いてあるから。少し子どもっぽいかもしれないけど春菜ちゃん小柄だからきっと似合うわよ。さあ、そうと決まったら早く、早く。」

「さあ、入って。まだ時間は大丈夫だから。紅茶でも入れるわね。いま、ハーブティーにこってるのよ。ソファーにでもかけててね。」
千秋の部屋を見回しながら、春菜が腰を下ろしたのは可愛いウサギのキャラクターのカバーが掛かったソファーだった。
「先輩の部屋って、可愛いですね。ちょっと意外でした。」
「妹の趣味なのよ。榛名ちゃんより2つ上なんだけどいつまでもこどもなの。」
「私の部屋もこんなですよ。ぬいぐるみなんかいっぱいあって」
「よかったわ、気に入ってもらえて。」
そう言った千秋の口元に浮かぶ不思議な笑みに春菜はまるで気づかなかった。

next