ベイビイ春菜⁄09

題名は思い出せないが懐かしい子守歌のような電子音がかすかに聞こえてきた。
大きなベビーベッドの上で目をこすると徐々に意識がはっきりしてきた。
少し離れた所にあるリビングボードの上にある時計は既に3時を少し回っていた。
ベビーベッドは春菜の部屋でなく、リビングルームに運ばれていたようだ。
ベッドの横のサイドテーブルには空になった哺乳瓶と数組のセットされたオムツとオムツカバーが置かれていた。
お尻の周りに濡れた布がずっしりと重くまとわりついているのがわかる。
“また、おねしょしちゃったんだ”
そう思ったとたんもうすでに、泣き出しそうな表情をうかべている。
すでに冷たくなっているところを見ると洩らしてからかなり時間がたっているようだ。
さっきの電子音もはっきりと聞こえてくる。
足下の方でなっているようだが、何処で何がなっているのかは、わからない。
音が何処からなっているのか探そうとキョロキョロしていると
身体がブルッと震え”あっ”と思った時にはもうオシッコが出てしまった。
冷たくなったオムツの中に暖かいオシッコが広がっていくと
なんのためらいもなく、自然と泣き出していた。
「ぅあんぎゃー、ぅあんぎゃー、ぅあんぎゃー、ぅあんぎゃー」
春菜は、誰もいないリビングルームで、母親を呼ぶ赤ん坊のように大声で泣いた。
“お姉ちゃま~オチッコ出ちゃったの。早く来て。オムチュとりかえて”
思考も次第に幼児化が進み千秋に依存する気持ちが芽生え始めた。
廊下をパタパタと走るスリッパの音が聞こえてきた。
勢いよくリビングのドアが開けられると、夏樹が飛び込んできた。
「お姉ちゃま、はるちゃんが泣いてる~」
少し遅れて入ってきた千秋に向かって大きな声で教えている。
「はるちゃん、ごめんなさいね。せっかく、お漏らしセンサーをセットしてたのに気がつかなくって」
サイドテーブルから一組のオムツを取るとベビーベッドの柵を下ろし
春菜が着けている涎掛けで涙を拭い優しく頭を撫でた。
「もう大丈夫よ。気持ち悪かったでしょ。すぐにオムツ取り替えてあげるからね」
春菜の耳元で言い聞かすように言うと、まだ涙の跡のある頬に軽くキスをした。
「でもね、オムツを取り替えてもらう時は自分のお口でお願いするのよ出来るわね?」
「は、はい。」
「オ、オシッコを洩らしてしまいました。オムツを取り替えてください」
春菜は耳たぶまで真っ赤にし、早口で一気に言った。
「ダメよ。そんな言い方じゃちっとも子供っぽくないわ
さっきは上手に言えるようになってたのに。お昼寝したら忘れちゃったのかしら」
「なっちゃん、どんな風に言えばいいか教えてあげて。」
あいかわらず、すっかり幼児化している夏樹は得意そうに春菜に向かって大きな声で言った。
「お姉ちゃま、あのね。なっちゃんね。オチッコ出ちゃったの。オムチュとりかえてくだちゃい」
「はい、よくできたわね。なっちゃんはすっかりお姉ちゃんね。」
「なっちゃんはもう泣かないでちゃんと言えるけど、はるちゃんは、まだ赤ちゃんだから、まず泣いて、私がどうしたのって聞いたらこんな風に言うのよ」
耳元で小さな声で千秋が何か言うと春菜は真っ赤な顔をして小さく頷いた。
「はるちゃん、チッチでたの。オチリやーなの。オムチュやーなの。」
「声が小さいわね。それからもっと舌っ足らずに言ってご覧なさい。」
「チッチでたの、チッチでたの。オチリやーなの。オムチュウゥ、ウェーン、エッエッエやーなのぉー」
幼児言葉を口に出す恥ずかしさは、想像以上のものだった。
しかも実際にオムツをあてられ、しかも大量のオシッコを洩らした状態で口にするのは
屈辱以外の何物でもなかった。
あまりの惨めさに、後半は泣き声に変わっていた。

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