ベイビイ春菜⁄19

長かった連休も今日で終わる。
朝食が終わる頃には本社から迎えの車が来ることになっている。

二人の妹たちの朝食の世話を焼く千秋の様子は普段と変わりなく、昨夜の痴態を微塵も感じさせない。
「ねーお姉ちゃま。朝、どこ行ってたの?」
「どこ行ってたの?」
夏樹の質問に春菜も言葉を重ねてきた。
「何処にも行ってないわよ。汗をかいたからシャワーを浴びてたのよ」
実際は寝ている間に二度もオネショをしてしまったためだが、千秋は、ごく自然にそう応えていた。
「さー二人とも、もう直ぐお迎えが来るから早く食べちゃってね」
二人は出かけるための洋服に着替えているので、汚さないように食事用のビニール素材で出来た お揃いのベビーエプロンを着け、テーブルと一体になったベビーチェアーに仲良く並んで食べている。
夏樹のテーブルにはウサギのキャラクターの5つに区切られたワンディッシュプレートとミルクの入った
コップが置かれている。
プレートには、スパゲティ、ミニハンバーグ、プリン、フルーツサラダ、それに小さなクロワッサンと
子供の喜びそうなメニューが可愛く盛り付けられていて、それを夏樹が嬉しそうにほおばっている。
春菜のテーブルには、すりおろしたリンゴや、リゾット、ヨーグルトなどの離乳食が入った小さな器と
ミルクの入った哺乳瓶が置かれていた。
春菜は哺乳瓶を手に取るとチューチューと上手にミルクを飲んでいる。
「あーん」
千秋が離乳食をすくったスプーンを春菜の口元へ近づけると、哺乳瓶を口から離し大きく口を開ける。
一口食べるとミルクを飲み、千秋がスプーンを口に運んでくれるのを待っている。
「春ちゃんも自分で食べてみようか?」
千秋の問いかけにイヤイヤとばかりに首を横に振る。
「春ちゃん、まだ小っちゃな赤ちゃんだから、たべえないの」
僅か一週間ほどの調教ですっかり幼児になりきっている春菜の口元に次のスプーンを運んだ。
「こんなに大きいのに本当に困った赤ちゃんね」
千秋は大きなリボンで飾られた春菜の頭を撫でながら微笑んだ。

“ピンポーン”
その時玄関のチャイムが鳴った。
「は~い」
スプーンを置いて出ようとする千秋を手で制しながらソファーで紅茶を飲んでいたママが立ち上がった。
「私がでる出るわ。貴女は春ちゃんをお願い」
「おはようございます」
ママが玄関のドアを開けると、若い男性の快活な声が聞こえてきた。
「早かったわね」
「今日は道が空いていたので思ったより早く着いてしまいました」
「子供たちもう少しかかると思うから、コーヒーでも飲んで待ってて」
「はい。お邪魔します」

「あっ。お兄いちゃまだ」
玄関から聞こえて来る声を聞いて立ち上がろうとした夏樹だったがベビーチェア―には食事の途中で動き出さないようテーブル部分にベルトが付いて固定出来るため、立ち上がれずにいると、ママと若い男がダイニングルームに入って来た。
若い男は薙田慶介(なぎた けいすけ)といい、ママ大牟田季子(おおむた ときこ)の甥にあたる。
身長は大柄なママよりもさらに頭半分くらいは大きい。
着やせするのかスレンダーに見えるが、決して華奢な感じはしない。
子供の頃より、文武ともに優秀で東京大学2年生の時にアメリカに渡りハーバード大学に編入。
2年後主席で卒業。卒業前にはプロバスケットリーグのドラフトにもかっかたが、 卒業と同時に帰国し伯母が大株主を勤める五蓉商事に入社。全ての部署を視察するかのように回り、3年で異例の社長室長に抜擢された。
現在の社長はママ大牟田季子の一人息子、晋一郎だが、慶介が社長室長に就任するまでは
季子の言うがままに、慶介が就任してからは慶介の助言で会社を運営している。
そんな凡庸な晋一郎だが創業家の直系四代目という看板の威光は大きく、
その存在だけで、会社の運営にとって、大きな戦力となっている。
だが、入社から8年、30歳になった慶介は事実上の経営トップと言っても過言ではなくなっている。

「千秋さんおはようございます」
「おはようございます。慶介さん。お休みなのに、朝早くから、ご苦労様です。」
「おや、千秋さん、今日はなんだかいつもと感じが違うなー。何か良い事でもあった?」
「えっ、べ、別になにもないわよ」
千秋にしては珍しく動揺してしてしまった。
慶介の真っ直ぐな視線に晒されると、大人の翳りの無い股間も、
ショーツに忍ばせた失禁パッドも見透かされているのではないかと不安になる。
普段、千秋はオシッコを洩らすようなことは無いのだが、ママに甘えた後、1日くらい思わぬ失禁をしてしまうことがある。
そのため、今日は失禁パッドを使っている。
慶介は美人受付嬢の夏樹が幼児化調教を受け、普段からオムツをしていることも、
さらにもう一人、今年入社した女子社員に、ここで幼児化調教を行っていることも承知している。
だが、千秋が年に数回、赤ちゃんに戻ってママに甘えていることは、知らないはずだ。
慶介にもママと同じような不思議な魅力がある。
もしも、慶介と二人きりになって心の内側を覗かれると全てをカミングアウトしてしまうかも知れない。
それどころか、慶介の前でオシッコを洩らし、泣きじゃくってオムツをねだる自分を甘い気持ちで
想像してしまうことさえある。
いままで、慶介と二人きりになってもそんな雰囲気になることはなかった。
それは、慶介が意識的に千秋の立場を尊重してくれているからに違いないと思っている。
今も、千秋のうわずった返事に気づかないはずのない慶介だが、そ知らぬふりで、今度は夏樹に声を掛けた。
「なっちゃんは、まだ赤ちゃんの椅子でご飯を食べてるんだ」
「えー。違うよ。なっちゃんはもうお姉さんの椅子だけど、今日は春ちゃんが一緒だから、
赤ちゃんの椅子で食べてるんだよ」
「そうなんだ。なっちゃんはもうお姉さんか」
「うん。だからお兄ちゃまぁ、抱っこちて」
夏樹は慶介に向かって両手を大きく広げた。
「えー。お姉さんなのに抱っこはおかしくか?」
「うううん。なっちゃんは、春ちゃんのお姉さんだけど、小っちゃなお姉さんだから、抱っこでもいいの」
「うーん。なんだかよく分からないけどまあいいや」
慶介は夏樹のベビーエプロンを外すと、両手を脇の下に入れ、ベビーチェアから一気に引き抜くように持ち上げた。
「高い、高ーい」
長身の慶介が手を伸ばすと別荘の高い天井にも頭が届きそうなる。
「キャー」
夏樹が悲鳴を上げる。
「ごめん、ごめん。怖かったのか?」
顔の高さまでおろすと夏樹は慶介の体に両足を回し、ぎゅっと力を入れて抱きついて、慶介の胸に顔をうずめた。
「あれっ、なっちゃんもしかしたら?」
慶介に声をかけられた夏樹は嫌々をするように、首を振り、慶介を見上げた。
「だって、だってね、お兄ちゃまがいきなりあんなに高くするから、なっちゃん、びっくりしてチッコ出ちゃったんだよ。お兄ちゃまがいけないんだよ」
目に涙を浮かべた夏樹が攻めるような目で慶介に訴えると慶介は夏樹の頭を優しく撫でた。
「なっちゃん、ごめんね。」

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