ベイビイ教師 祐美子02

理事長・校長他、一連の主立った歴々の挨拶、祐美子の自己紹介もおわり、
立食形式のパーティーは、和やかに終わろうとしていた。
「吉沢先生」
先輩の数学教師に呼ばれ祐美子は戸惑った。
自分が先生と呼ばれたからである。戸惑いながら祐美子は、答えた。
「はい、なんでしょう」
「理事長が、呼んでるよ。ほら、あそこにおられる」
数学教師が示した方を見ると理事長がニコニコして、てまねきをしている。
「本当だわ、それじゃあ行ってまいります」
軽く会釈して祐美子は、理事長のもとに向かった。
「いやー会談中呼び付けて申し訳ない。
 こいつが早く先生に紹介してくれとせがむもんでな」
ワインであからんだ顔をほころばせながら理事長はいった。
隣に居たのは、さっきの少女である。
「大村寺静香です」
「そうなんだ。わしの孫なんだよ。
特別扱いしてる訳でもないんだが、どうもこの子にだけには弱くていかん」
前にも増して顔をほころばせながら理事長が笑った。
「はじめまして、吉沢先生」
高校生とは思えないような落ち着いた声だった。
パーティードレスを優雅に着こなし、むしろ祐美子よりも大人っぽく見える。
「2年A組。成績は、トップクラスで合気道部と華道部の主将も努めておる。 よろしく頼みますよ、吉沢先生」
自慢気に理事長が静香を紹介した。
「こ・こちらこそ、よろしくお願いします」
祐美子は緊張している。
静香に見つめられているせいだ。年下の少女に威圧関さえ感じている。
「先生ってとっても肌がきれいですね。 すべすべしてて、まるで赤ちゃんみたい」
「ありがとうございます」
自分では、気づかずに年下の少女に敬語を使っている。
「そうだわ、この後わたしの部屋で二人でパーティーをしましょう。わたしの部屋、先生の部屋の隣なの。
いいでしょう、おじい様」
静香がはしゃいで祖父の方をみた。
この時、やっと高校生の素顔をみたような気がして祐美子はほっとした。
「うむ、先生さえよければいいだろう。
吉沢先生、妹だと思って相談にのってやってくだされ」
「はい。わたしでよろしけば」
「嬉しい。じゃあ、すぐに行きましょ」
「おいおい、まだパーティーは、終っとらんぞ。ハッハッハ」

祐美子はいつもより少しワインを飲み過ぎた。
もともと、アルコールに強いほうではない。
静香も飲んでいたようだが少しも顔色は、変わっていない。
一度自分の部屋に戻り、普段着に着替えてから静香の部屋に行った。
「静香さん、いいかしら」
ドアをノックすると部屋の奥から静香の声が聞こえた。
「どうぞ。開いてるわ。はいってらして」
威圧的な声であった。
一瞬にして緊張が祐美子をしばりつけた。
ドアを開けて中に入ると静香の声がした。
「こっちにいらっしゃい」
そのとき「ガチャッ」と音がしてドアがロックされてしまった。
祐美子の緊張が一層高まった。
「何をするの」
静香のいる部屋に向かって言った。
「早くきなさい。パーティーよ」
祐美子はその声に逆らえなかった。
広いリビングルームの向こうの部屋から声は聞こえている。
祐美子は黙ってそのドアを開けた。
中では静香が紅茶をいれていた。
「そんな所に立ってないでお掛けなさい。 ケーキもあるわ」
「どう言うことなの。わたしかえります。鍵を開けてください」
「パーティーなのよ。さあ、楽しみましょう」
「大声をだすわよ」
「どうぞ。この部屋は、完全防音よ。
 それに、このフロアにはこの部屋と先生の部屋しかないのよ。おあがりなさい。咽がかわいているはずよ」
静香に言われると本当に咽が乾いてきた。
そして、その紅茶を飲まずにはいられなくなってきた。
「飲んだら何のパーティーか教えてあげるわ。どうぞ、召し上がれ」
祐美子は黙って紅茶を飲みケーキを食べた。
静香も黙って紅茶を飲んでだ。そしてその口許には、不思議な微笑みが浮かんでいた。

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